
インコネル718旋盤加工のバリ低減と寸法安定化への取り組み#
はじめに#
ニッケル基耐熱合金 インコネル718 は、耐熱・耐食性に優れる一方で、低い熱伝導率と加工硬化の影響により切削が難しく、バリ や ノッチ摩耗、寸法のバラつき が発生しやすい材料です。
タケパーツファクトリーでは NC旋盤加工 を中心に、工具仕様と冷却、段取り、フィードバック測定を一体で見直し、短納期の小ロットでも安定して品質を出すための改善を進めました。
インコネル718加工の主な課題#
- ノッチ摩耗:切込み境界で急速に進行し、仕上げ面粗さと公差に悪影響
- 加工硬化:前工程の擦れで表面が硬化し、後工程の刃先負荷が上昇
- 長い切りくず:絡み付きによる面荒れ・寸法外れ・停止リスク
- 発熱:熱が工具側に集中し、寿命が短くなる
改善アプローチ#
1. 工具と刃先仕様の最適化#
| 項目 | 従来 | 改善後 | |------|------|---------| | 工具材種 | 一般超硬(PVD汎用) | 微粒子超硬 PVD TiAlN/AlCrN(耐熱性重視) | | 刃先エッジ | r微小不明 | 微小ホーニング 0.02–0.04mm(欠け抑制) | | すくい角 | 標準 | ポジティブ系(切削抵抗と加工硬化を低減) | | 先端R | R0.4 | 粗R0.4 / 仕上R0.2 使い分け | | ブレーカ | 汎用 | 耐熱合金向け チップブレーカ採用 |
2. 切削条件とパス設計#
代表ワーク(φ32→φ28, 寸法公差 ±0.01mm)の社内検証値
粗加工:
- 切削速度 vc = 30–36 m/min
- 送り f = 0.14–0.20 mm/rev
- 切込み ap = 1.0–1.5 mm
仕上げ:
- 切削速度 vc = 26–30 m/min(発熱抑制)
- 送り f = 0.06–0.10 mm/rev
- 切込み ap = 0.2–0.4 mm
その他:
- G96 定周速 + G50 上限 で過回転防止
- 空転・停滞を作らない退避、溝加工は ペック制御 で擦れを回避
3. 冷却と切りくず制御#
- 高圧クーラント 70–100 bar を切れ刃直近へ集中的に噴射
- エマルジョン濃度 8–10%、ノズル角度をせん断域へ合わせ込み
- 切りくずセパレータの形状を調整し、連続長尺→分断 を促進
4. 段取りと把握力の安定化#
- 生爪現物合わせ と突出量 2D以下 を原則化
- 細長ワークは 心押し/サブスピンドル引き取り で撓みを抑制
- 刃先摩耗を 工具寿命管理 で数値化し、補正量をルール化
5. 測定フィードバック#
- 初品・中間・終盤の 3点測定(寸法/真円度/表面粗さ)
- 仕上げ前に ワンパス軽切込み を追加し、加工硬化層を除去
実証結果(社内検証 20–50個ロット想定)#
成果サマリー
品質データ(代表値)#
- 表面粗さ:Ra 1.2 μm → 0.4 μm
- 真円度:±0.004 mm → 0.0025 mm
- 寸法ばらつき(仕上外径):±0.015 mm → 0.010 mm
- 交差穴縁の二次バリ:0.20 mm → ≤0.05 mm
"※ 上記は社内検証の代表値であり、形状・材質ロット・要求精度により最適条件は異なります。図面情報を基に個別最適化します。
よくあるご相談と回答#
Q. 小ロットでも最適化するの?#
A. 初品段階での測定フィードバックと工具補正ルールで、20–50個の短ロットでも立ち上がりから安定化します。
Q. 旋盤かフライスか迷っている#
A. 外径・溝・ねじ等は旋盤が有利。側面加工やポケットはミル工程と分割し、最短リードタイムの工程設計をご提案します。
Q. 図面のRや面取り指示が厳しい#
A. 先端Rの使い分けと 微小切込み の仕上げパスで対応。C面0.2–0.3 なども安定実績があります。
まとめ#
刃先仕様・切削条件・高圧クーラント・段取り・測定の 5点同時最適化 により、インコネル718のNC旋盤加工で バリ低減 と 寸法安定 を両立しました。短納期の小ロットでも、初品から量産水準の品質に素早く到達します。